2023/08/20 15:04
Instagram:gencos_baecker
GENCOSさんとネット上で知り合ったのは2015年にまで遡ります......私が大学時代にブログに書いていたブレーメンの旅行記を読んでくださって、実際に行かれたことがキッカケという!
GENCOS そうなんです。僕はそのときドイツに来て2年目で、製パン見習いとしてミュンヘンのパン屋で職業訓練をしていました。自分のドイツ語スキルを試すために1人旅をしようと思い立って、『地球の歩き方』を読んでいたんですね。そのときに「芸術家村 ヴォルプスヴェーデ」のページを見つけました。
ただ、そこには1ページしか情報が掲載されていなくて。ネットで色々調べていた時に、山中さんが実際に行って書かれたブログを発見しました。しかも、その芸術家村を題材にしたボードゲームも作られていて、当時びっくりしましたね。
ただ、そこには1ページしか情報が掲載されていなくて。ネットで色々調べていた時に、山中さんが実際に行って書かれたブログを発見しました。しかも、その芸術家村を題材にしたボードゲームも作られていて、当時びっくりしましたね。
▲ヴォルプスヴェーデの風景
卒業制作で芸術家村を題材にしたゲームを作るために、調査旅行としてブレーメンやヴォルプスヴェーデを訪れました。でも当時はネット上にも本当に情報が少なく日本人で行ってる方がほぼいなかったので、ブログに行き方を残しておこうと思ったんですよね。それにしても、GENCOSさんはどうして芸術家村が気になったんですか?
卒業制作で芸術家村を題材にしたゲームを作るために、調査旅行としてブレーメンやヴォルプスヴェーデを訪れました。でも当時はネット上にも本当に情報が少なく日本人で行ってる方がほぼいなかったので、ブログに行き方を残しておこうと思ったんですよね。それにしても、GENCOSさんはどうして芸術家村が気になったんですか?
GENCOS 当時「芸術家村」という響きに刺激を受けて、絵を一度も描いたことがないのに、絵の具とスケッチブックをリュックにつめて持って行ったんですよ。実際に絵の具で生意気に村の風景を描いたりしていました(笑)
訪れてみて、印象に残ったことはありましたか?
GENCOS 実は、芸術家村に惹かれたとはいえ、それまで絵画の良さを理解できていなかったんです。村には4つくらいの美術館があって、その中で初めて感動した作品がありました。展示室の壁にずらっと絵が掛けられている中に、子供が描いたような風景画があって。最初は良さを理解できませんでしたが、一通り見終わって見逃した絵はないかなと振り返ったら、「めちゃくちゃ綺麗な絵があるぞ!」と。近づいてみたら、さっきの風景画だったんですね。
ウド・ペータースの《中庭》という作品です。近くで見たときと、離れて見たときの印象が全然違ったんですよ。その後ミュージアムショップに寄って、その絵が載っている本を片っ端から探して、『ヴォルプスヴェーデ 125周年の歴史』という本を見つけて購入しました。
▲ウド・ペータース《中庭》
初めて感動する絵画に出会えたというのは、素敵な体験ですね。私も彼らの風景画を美術館で見たとき、とても感銘を受けました。『旅するゲームブック:ブレーメン』では、彼らが見た自然の風景やその跡地をめぐる旅を体験できるようになっていますが、プレイされてどうでしたか?
GENCOS 僕は普段アナログゲームを全然プレイしないので、『旅するゲームブック』がどんなゲームか遊ぶまで想像ができなかったんです。でも実際にやってみたら、「旅してる感」っていうのが本当にあって驚きました。個人的に良かったのは、1周プレイし終えるまでの旅のサイズ感です。
最初は、すべての場所を1回でまわるのかと思っていたんですね。ブレーメンからヴォルプスヴェーデに移動するときも、「もう行っちゃっていいのか?いやもうちょっとブレーメンに居ようかな。」とか。でも遊んでいたら帰りの時間がやってきて「あれ、まだ見てないところあるのに!」という気持ちになりました。そしてエンディングを迎えたら、プレイした日付を記入するところがあり、そこではじめて1回で完結するゲームじゃないということに気づいたんです。
実際の旅というのも本当にそういう感覚で、時間的にも体力的にも限界があって、あっという間に帰る時間がやってくる。ゲームでも、そういう心の残りの気持ちが生まれるリアリティに感動しました。あと僕は行けなかったのですが、フィッシャフーデという田舎町へ2時間かけて歩いて行ったというエピソードが印象的で、熱いなぁって思いましたね。
ブレーメン版はどうやって巡ってもらおうかと、分岐や場所の検討をかなり試行錯誤をした作品でした。楽しんでいただけて嬉しいです。GENCOSさんは普段ドイツのパン屋さんで働かれていますが、ブレーメンのある北ドイツのパンについて教えていただけますか?
GENCOS 北ドイツでいうと、黒パンと呼ばれる酸味のあるものが多い気がします。たとえば「プンパニッケル」というパンがあって。それはサワー種という素材を発酵させて低温で長時間焼かれたものですが、クセがありとても酸っぱいんですよね。南ドイツでももちろん存在はしていますが、一般的ではなく、北ドイツ特有のパンだと思います。
そういえばブレーメンに行ったときに朝食として知らずに買っちゃって、なにも付けずに食べたことがあるのですが、穀物の味と酸味に衝撃を受けた記憶があります。クリームチーズや生ハムをのせて食べたら美味しそうですね。
GENCOS たしかに、あんまり朝食としては食べないかもしれないですね。 あと、実はドイツには3000種類パンがあると言われていて、同じように見えても素材の配合や、生地の成形がちょっと違うだけでも地域によって呼び方が変わったりします。
もともとドイツが39の国家だったという歴史もあるので、各地で地元愛やこだわりが強いというのもありますね。たとえば2つの街でほぼ配合が同じパンがあったとしても、それぞれで「私たちのパンだ」と誇りに思っているところがあるので、それで名前が違ったりして、3000種類になってるんじゃないかと思います。
パンに対する街の人の愛がすごいですね。GENCOSさんは、仕事だとどのようなパンを作られていることが多いですか?
GENCOS 今は南ドイツのパン屋で働いていますが、大きいパンだとライ麦を使ったものが多く、小さいパンだと小麦を使ったものが多いですね。前の職場で職業訓練の3年を終えて、職人として2年ほど勤めていたときに、大型パンを焼くオーブンの担当になることが多かったんです。5段あるオーブン3台に加え、パンの発酵も管理してましたね。
▲大型オーブン
発酵の見極めを失敗した経験も何度かありました。ただ、ドイツは日本ほどパンの仕上がりに厳しくないので、お店もお客さんも寛容なのが良いところだと思います。
発酵の見極めを失敗した経験も何度かありました。ただ、ドイツは日本ほどパンの仕上がりに厳しくないので、お店もお客さんも寛容なのが良いところだと思います。
パン屋さんは朝が早い印象がありますが、ドイツでもそうなんでしょうか?
GENCOS そうですね。今の職場は朝4時から仕事をはじめます。前の職場だと深夜1時出勤で、朝9時だったり12時まで働いてました。やっぱり皆、朝食のパンを朝買いにくる家庭が多いので、そういう出勤のスタイルになりますね。ただ、自分にとってそのように働く環境が大変だと思ったことは一度もないんです。ドイツに来る時に覚悟していましたし、やるしかないなって思っていたので。
▲職場で作られていたパン
GENCOSさんは「ドイツパン修行録」としてnoteに文章を書いていたり、YouTubeやインスタもよく更新されていて、お仕事の合間にそういった活動をされているのが本当に尊敬します。そういえば先日、ウィーンへ旅行をされていましたが、そこでカフェをたくさん巡られたとのことで。ウィーンが大好きとお伺いしましたが、今回はどんな旅になりましたか?
GENCOS 僕にとってウィーンは心の故郷だと思っていて。そこにいるだけで、帰ってきた感覚があって安心するんです。一番良いのはやはりカフェ文化で、伝統的なカフェをたくさん巡りました。
たとえば「カフェ・ザッハー」はウィーンだとあまりにも有名なので普段見送っていたのですが、「今回の旅行はカフェ・ザッハーで始めたい」という気持ちがあって。実際にザッハトルテを一口食べるたびに最高で、椅子の背もたれに寄りかかって天を仰ぎながら「はぁ......」とため息が出ましたね。
たとえば「カフェ・ザッハー」はウィーンだとあまりにも有名なので普段見送っていたのですが、「今回の旅行はカフェ・ザッハーで始めたい」という気持ちがあって。実際にザッハトルテを一口食べるたびに最高で、椅子の背もたれに寄りかかって天を仰ぎながら「はぁ......」とため息が出ましたね。
▲ザッハトルテ
ウィーンのカフェは、場所によっては豪華絢爛で凛とした空間なのに、誰でも受け入れてくれる敷居の低さがあります。僕が持っている『ウィーン カフェの歴史』という本の中で「どんなに財布がペラペラでも、着ている服がボロボロでも、ウィーンのカフェはあなたを受け入れますよ」ということが書かれていて印象的でした。
そして僕の好きな「カフェ・ツェントラル」の入口には、作家ペーター・アルテンベルクの像があります。彼は一時期そこに入り浸って、住居にしていたといいます。そういう象徴的なエピソードがあるのも面白いですね。実際に行ったときは、アルテンベルクという彼の名前がついたチョコレートケーキを食べたんですけど、それも美味しかったですね。
▲カフェ・ツェントラル
ウィーンのカフェの魅力は、ただお茶をするだけの場所じゃなくて、カウンターでお酒を飲んでちょっと立ち話をしたり、市民の情報交換の場所であり、憩いの場でもあります。
その感覚、わかります。宮殿かと思うくらい内装が豪華なカフェもありますが、ウェイターの方が気さくだったり、街の人々で活気に溢れていて、居心地が良いですよね。つい友人と長居しておしゃべりした思い出があります。ウィーンでGENCOSさんは他にどんなスイーツを食べましたか?
GENCOS ケーキだと、デメルで「モーツァルトトルテ」を食べた記憶があります。チョコとピスタチオクリームのケーキなんですけど、音楽家モーツァルトがピスタチオが大好きだった逸話があり、それを使ったお菓子はだいたいモーツァルトという名前がついてることが多いです。
お土産でよく「モーツァルト クーゲル」という丸いチョコが売られていますが、それにも中にピスタチオクリームが入っています。僕はチョコレートケーキが好きなので「モーツァルトトルテ」は美味しくて印象に残ってますね。
お土産でよく「モーツァルト クーゲル」という丸いチョコが売られていますが、それにも中にピスタチオクリームが入っています。僕はチョコレートケーキが好きなので「モーツァルトトルテ」は美味しくて印象に残ってますね。
▲モーツァルトトルテ
ウィーンで食べるチョコレートケーキは美味しいですよね。私もデメルでヘーゼルナッツのチョコレートケーキを食べましたが、口の中でチョコが溶けていく感覚が記憶に残っていて、とても美味しかったです!『旅するゲームブック:ウィーン』でも伝統的なカフェをいくつか巡れるようになっているので、ぜひ楽しんでもらいたいですね。
最後に、GENCOSさんが『旅するゲームブック』で遊びたい都市や国があれば教えてください。
GENCOS イタリアの南にプーリア州という地域があります。その中に「アルタムーラ」という街があって、通称「パンの村」と呼ばれています。イタリア最古のパン屋さんもあったり、「パーネ・ディ・アルタムーラ」という大きなパンが、イタリアをはじめ海外からも評価されていたりします。
噂によると、数年前にマクドナルドがその街に出来たんですが、市民が地元のパンが好きすぎて、すぐにマックはなくなってしまった、という話を聞いたことがあります(笑)それだけ、街の人たちはアルタムーラのパンが大好きなんですよね。
噂によると、数年前にマクドナルドがその街に出来たんですが、市民が地元のパンが好きすぎて、すぐにマックはなくなってしまった、という話を聞いたことがあります(笑)それだけ、街の人たちはアルタムーラのパンが大好きなんですよね。
▲イタリア最古のパン屋で購入したパン
そこに実際に行ったとき、僕にとっては冒険のような旅でした。その場所では英語もドイツ語も通じないので、当時イタリア語を必死に勉強して、なんとかコミュニケーションをとりなが旅をした思い出があります。
そして実は治安があまり良くなくて、マフィアもたくさんいる地域なんです。幸い危険なことは起こりませんでしたが、無事に旅を終えて帰ってきたときの達成感はすごかったです。でも、ひとりで行くのはやっぱり危険な場所なので、現実的ではないかもしれないですね。ただプーリア州は海と日差しの景色が本当に綺麗なので、ぜひ行ってみてほしい気持ちはあります。
▲プーリア州の街マテーラ
それは、なかなハードな旅になりそうですね......。イタリアにはひとり旅をしてみたいと思いつつ治安の面で見送ることが多いので、生きてるうちに一度は行ってみたいなぁと思っています。「パンの村」があるということも初めて知ったので、その地でぜひアルタムーラのパンを食べてみたくなりました。
ということで、今回はGENCOSさんにドイツとウィーンをはじめとする、パンや食の話をお伺いできました。『旅するゲームブック』に登場したお店やスイーツも色々ありましたし、新しく知った食のエピソードもあり勉強になりました。本当にありがとうございました。これからもパン作り頑張ってください!
Instagram:asamiy024